シャルレーヌ・ファヴィエ監督にインタビュー
オクサナ・シャチコは日本ではほぼ無名だろう。彼女がウクライナで設立したフェミニスト団体、FEMENも。映画『OXANA/裸の革命家・オクサナ』を観ると、その激しさにロシアのプッシー・ライオットを思い出すが、FEMENはメンバーの女性たちがトップレスになって政治的なスローガンを体に書きつけるセンセーショナルな行動で有名になった。とはいえシャルレーヌ・ファヴィエ監督も、それ以上はよく知らなかったという。
「第1作の『スラローム』を撮り終えたあとに、プロデューサーに『あなたに合うテーマがあるから、調べてみて』と言われたのがオクサナの人生でした。リサーチを重ねてトップレスになった理由が見えてきたからこそ、この脚本が書けたんです。彼女たちにとってそれまで女性の体は欲望の対象でしかなかった。そこから、セックスや売春における価値ではなく、自分の体を政治的メッセージの媒体にするという発想が生まれたんです。そこを理解してほしい。トップレスは知的で、考え抜かれた選択だったんですよ」
映画はさらにオクサナを多面的なひとりの女性として描く。カリスマ性のあるアクティビストというだけでなく、イコン画の芸術家として、フランス亡命後の孤独や脆さも。
「パリでの彼女は沈みがちで、何日も部屋に閉じこもっていたそうです。貧乏で、空き部屋を占拠して住んだり。一方で昔の仲間は滞在許可をもらい、メディアに出て目立っていた。オクサナのそんな見えづらい真実を提示したかったんです」
オクサナの人物像や映像において宗教性、スピリチュアリティが強調されているところもユニークだ。
「ジャンヌ・ダルクの人生のメタファーが念頭にありました。オクサナの母親は彼女を“小さなジャンヌ・ダルク”と呼んでいたんですが、彼女の軌跡には受難者のようなところがある。オクサナは若い頃、神から“世界の不正を正す”という使命を受け取ったと信じていたんですね。でも信仰心はあっても、女性の自由を阻害する教会組織、腐敗したシステムには反発していた。そこにアンビバレンスがあります」
オクサナを演じるのはアルビーナ・コルジ。ウクライナの俳優にこだわってキャスティングされた。
「アルビーナには地上から浮いているような、形容しがたい不可思議さがあって。パリでテストをしたんですが、カメラを向けた途端、3秒後には『あ、彼女だ』とスタッフ全員が感じました。信じられないようなオーラを放ったんです」
オクサナがプーチンを糾弾したのが2013年。そして本作製作中の2022年2月、ロシアがウクライナ侵攻を始めた。
「本当に小説より奇なりというか、現実が私たちの前に立ちはだかった感じでした。オクサナは2013年にすでに『プーチンは危険だ』と言っていた。ニュースを聞いたときには製作陣全員が絶対にこの映画を完成させるんだ、という思いを強くしました。それと、今はフェミニズムが後退していますよね。#Me Tooで女性が声を上げたことがブーメランみたいにはね返って、世界中で反動が起きている。フランスでも極右が台頭している。だからこそオクサナのような人が表現の自由や女性の自由、民主主義のために命を捧げたこと、刑務所に入れられても闘い続けたことを描くことに意義があると思います。そういう女性がいたことを知ってほしいんです」