『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』開催中。なかったことにされてきた女性たちの“まなざし”から見る歴史

石内都のシリーズ〈ひろしま〉

1 石内都のシリーズ〈ひろしま〉より石内都 《ひろしま#69 donorAbe, H.》 2007年
©Ishiuchi Miyako, Courtesy of The Third Gallery Aya

1950年代以降に活躍した日本人の女性写真家が一堂に会する過去最大級の展覧会『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』がアルル国際写真祭でお披露目されたのは、2024年7月のこと。以来世界各地を巡回中の同展の拡大版『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』がいよいよ東京で開かれる。キュレーターを務めた竹内万里子さんは、本展は日本写真の言説の在り方に一石を投じていると話す。

「たとえば90年代に岩波書店から刊行されたシリーズ『日本の写真家』は、日本写真史に関する優れた書籍ですが、選ばれた作家は全員男性でした。つまり女性作家の存在はなかったことにされてきた。長らく日本写真をめぐる語りが、社会のジェンダー・バイアスを反映していたということも、このプロジェクトの背景にあります」

横浜の赤線地帯で働く女性たちを診る病院で常盤とよ子が撮った1枚

2 横浜の赤線地帯で働く女性たちを診る病院で常盤とよ子が撮った1枚常盤とよ子 《県立屛風ヶ浦病院待合室》 1956年

竹内さんは本展覧会に際し、海外での巡回展からさらに作家の数を増やし、新たに『記録と記憶をめぐる冒険—目に見えないものに向かって』と題された章を加えて展示を拡充。「記録、つまり目に見えるものを通して、記憶、つまり目に見えない世界にアプローチしていることが、ここで取り上げた作家の共通点。そこで、『記録と記憶をめぐる冒険』と命名しました」と説明する。

注目すべき章の人選にあたって起点となったのは常盤とよ子。1957年に赤線地帯で働く女性たちを被写体とするシリーズを発表した、日本の女性写真家のパイオニアのひとりだ。そのほかの作家について、竹内さんはこう語る。

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』の画像_3

3 歴史上の人物が使っていた眼鏡を通してその人物に関係する文章を覗く、米田知子の〈見えるものと見えないもののあいだ〉より米田知子 《ル・コルビュジェの眼鏡―パリ「近代住居」の講演原稿を見る》2003年
©TOMOKO YONEDA, Courtesy of ShugoArts

4 藤岡亜弥が広島で撮影し、木村伊兵衛賞などに輝いた〈川はゆく〉は、竹内さんいわく「誰も見向きもしないような日常の延長線上としての街の等身大の姿」を捉えている石川真生〈アカバナー〉より 1975–1977年
©Mao Ishikawa / Courtesy of POETIC SCAPE

「1960年代に東京大学の全共闘の学生運動において唯一その内部の撮影を許された渡辺眸さんの写真からも、当時の若者たちの息遣いがじかに感じられます。石内都さんの出展作の一つ〈ひろしま〉は、原爆の犠牲となった方々の衣類を慈しむようなまなざしで捉えています。石内さんと同じく70年代から活動してきた石川真生さんは、沖縄の米兵相手のバーで自ら働きながら、同僚や米兵たちの姿を全身で受け止めつつ撮影してきました。米田知子さんは歴史的な人物が実際に使った眼鏡を通して、その人に関わる資料を覗きます。あちこちを放浪して撮影された西村多美子さんの写真は、名もなき人々が紡ぐ生のありようを鋭く垣間見せます。これらの写真からは、歴史の語りからこぼれおちる個人の記憶や想いをそれぞれ豊かに想像することができるでしょう。ほかにも、藤岡亜弥さんは広島における『川』の存在に着目し、平和記念都市としての表の顔とは異なった、生きられる街としての知られざる素顔に触れています。移住したコミュニティに深く関わる志賀理江子さんや、福島とハワイの間における人々の交流の視覚化を試みている岩根愛さんは、一種のフィクションをはらみながら、多くの人々の記憶や想いを鮮やかなイメージとして立ち上げます」

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』の画像_4

5 半世紀以上沖縄を撮り続けている石川真生の出展作のひとつ藤岡亜弥 〈川はゆく〉より 2013–2027年 ©Aya Fujioka

6 東日本大震災の発生時に宮城県名取市で暮らしていた志賀理江子が、地元コミュニティと深く関わる中で生まれた写真集/展覧会〈螺旋海岸〉より志賀理江子 《こどものあそび》 2012年@Lieko Shiga

そんな女性たちの作品には意図せずして、原爆から東日本大震災まで日本の歴史の重要な転換点の数々が網羅されている。

「『歴史』とは遠いどこかにある物語なのではなく、私たちと同じひとりひとりの個人によって生きられてきたものだと実感することは、とても大切です。それこそが、他者への想像力につながるからです。これらの作品群は個人的な視点をはらみつつ、多くの歴史的なテーマを含んでいます。写真というメディアは、歴史を単なる知識としてではなく、このような個人の生を通したリアリティをもって伝える力を持っているのだと思います」

竹内万里子プロフィール画像
批評家、作家、キュレーター竹内万里子

1972年、東京生まれ。京都芸術大学教授。米国人のレスリー・A・マーティン、フランス人のポリーヌ・ヴェルマールと『I’m So Happy You Are Here』展のキュレーションを担当した。

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』

総勢30名の日本人の女性写真家による約200点の写真や映像作品を、4つの章立てで紹介する。
会期/7月4日〜8月26日
会場/ヒカリエホール(東京・渋谷ヒカリエ9F)

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