Virgil Abloh / OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™

Interview with Virgil Abloh

PROFILE
ヴァージル・アブロー●1980年アメリカ・イリノイ州生まれ。イリノイ工科大学で建築学修士号を取得し、2013年に自身のブランドを設立。現在はルイ・ヴィトンのメンズ部門のアーティスティック・ディレクターも務める。

デザインは一方通行じゃない。
耳を傾けることが重要

 ファッション界にとってコロナ禍は脅威ではなく、「むしろシステムをアップデートしてポジティブな変化をもたらす絶好のチャンス」と前向きな展望を描く、ヴァージル・アブロー。地元シカゴでは3月後半にロックダウンが始まったが、新型コロナ後のファッション界に思いを馳せながら、リモート形式で次のコレクションの準備を進めていた彼は、休むどころか多忙な日々を過ごしたという。

「自分なりにロックダウン期間を楽しんだよ。抱えているさまざまなプロジェクトの仕事がたくさんあるうえに、絵を描いたりDJをしたりといった活動も続けて、非常にクリエイティブな状態を保っていた。こうした状況下では、クリエイティビティ全般が人々を助けることができると思うんだ。何かに刺激を受けたり、夢を膨らませるのはすごく大切なことだから、これは世界中に届けたいメッセージ」

 ファッションもまた、クリエイティブであることに改めて意識を傾けることで、引き続き大きな存在意義を維持できるのではないかとヴァージルは語るが、やるべきこと、考えるべきことはほかにもある。

「僕の予測では、みんな、自分が共感できるブランドやデザイナーを厳格に見極めるようになるんじゃないかな。だから着る側の価値観や興味の対象に寄り添い、深く心が通い合うようなコネクションがデザイナーに求められる。そういう意味で、より有意義なデザインをすることがこれからのゴールだね」

 そんなゴールを達成するために重要なこととして、“耳を傾けること”を彼は挙げる。

「デザインは一方通行の作業ではないと思うし、今の時間を利用していろんな人と意見を交換するべき。僕は自分のフォロワーたちと交流するのも好きなんだ。彼らの意見にはしっかり耳を傾けていて、究極的にはそういうプロセスを通じてコレクションを形づくっていくんだよ。実際に旅をして世界中の友人と会って話したり、各地で起きていることを体験したりできないのは、コロナ禍で一番残念なことだけど、そこはSNSなどで補うことになるんだろうね」

“耳を傾けること”といえば、ファッション界を活性化するためには、若い世代の貢献も欠かせないとヴァージルは指摘する。

「若い世代に積極的に門戸を開くというのは、僕が以前から主張していたこと。今の困難な状況を打破するにはまさに斬新なアイデアが必要とされているわけだけど、若い人たちこそ、そういうアイデアを出す可能性を備えていると思う」

 去る5月には、米国ファッション協議会と英国ファッション協議会が共同で、業界の在り方の再考を呼びかける声明を発表。彼も多方面で議論が進むことを歓迎しているというが、必要性に疑問を呈する声も聞かれる大がかりなファッションショーの是非については、次のような持論を展開する。

「そもそも、ファッションショーはすでに以前とは違う形に変容していたと僕は思う。新作を披露するという旧来の文脈でのショーは、ほとんど誰もやっていない。現代のショーはマーケティングの場であり、ブランドとそのフォロワーがコネクトする場だ。だからこれからも開催するべきだと思うし、どんな試みができるのか逆にエキサイトしているよ。たとえば問題提起の場としても有効だよね。ファッションにはどんどん社会問題を反映させるべきだし、僕はアイデアを伝達する媒体としてファッションを利用するという考えに、すごくインスパイアされる。ショーだけでなく、洋服そのものからマーケティングのツールに至るまで、伝達手段はいろいろあって、人々が何かを学ぶきっかけを提供できるんじゃないかな」

普段から自分の身の回りに何かしら「タイムレスなもの」を置いておくことにこだわっているという。「花もそのひとつで、太古の昔から変わらない美の象徴。自然界の色彩は美しさも格別だと思う」。

interview & text: Hiroko Shintani

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