Interview with Francesco Risso
PROFILE
フランチェスコ・リッソ●イタリア・ジェノバ生まれ。2017-’18年秋冬コレクションより、「マルニ」のメンズとレディスのクリエイティブ・ディレクターに就任。物語のある独創的な世界観でマルニを牽引している。
photography: ©MARNI
不思議なことにこの危機は、
顧客との関係性を近づけてくれた
心を満たすために、絵を描くことに没頭していたフランチェスコ。「どこもかしこもキャンバスだらけで、床はひどい散らかりようだったな」
新型コロナウイルスが猛威をふるった欧州の中でも、特に深刻な状況下に置かれたイタリア。早い時期から封鎖に追い込まれる中、マルニのクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・リッソが自宅でペインティングに打ち込む姿を、自身のインスタグラムで見たマルニファンも多いはずだ。
「悲劇とも思えるこの期間が、自分たちの心の奥深くに眠るマインドフルネス(気づき)を呼び覚まし、物づくりにおいても新しいアプローチのきっかけとなることを願っています。私にとってもチャレンジングではあるけれど、変化することはいつでも意味のあること。このようなかつて経験したことのない事態が、目的意識を持ったり自分たちの本質に立ち返ったりする誘因となったらいいと思うのです」
今回、クリエイティブ面からプロダクションに至るまで、今までのアプローチや手法の再考察を余儀なくされたというフランチェスコ。しかし、チームとのリモートワークは、この状況下においても最大限の効果を引き出せていると満足そうだ。
「私たちの結論は、私たちのテイラーや職人たち(そして彼らの家族たち)を必ず守っていかなければならないということ。なぜならブランドが今ここにあるのは彼らのおかげだからです。私たちが誰よりも強くこう感じているのは、イタリアがこの新型コロナウイルスによる大規模な打撃を受けたこと、そしてこの国が、テキスタイルをはじめファッション産業を担う中心地でもあるからこそ」と語る。
「私はイタリアのクラフツマンシップの力と、手仕事が生む洋服作りの尊い価値を信じているし、それを次へとつないでいかなければいけないと感じます。私たちは、人や物の本質に、さらに意識を傾けていくべきときなのです」
加えて、ブランドと顧客との関係性においても、人間性や心理的要求を大事にしていきたいと語る。
「不思議なことにパンデミックは、顧客との関係性をさらに近づけ、私たちが互いに共存していることを気づかせてくれました。今、商品よりさらに大事なのは、彼らの気持ちに寄り添い、信頼関係を築いていくことです」
イタリアが全土ロックダウンに踏み切る直前に発表された2月のミラノ・コレクション。ランウェイには、マルニのアーカイブ生地を使用した多様な素材と柄のパッチワークドレスやコートが登場した。
「その価値をさらに高めるために素材を再生し、新しいピースをリクリエイトしたのです」というコレクションは、余剰素材の循環を、マルニらしいやり方で追求したものだった。それがブランドの未来を見据えたコレクションであったことは、次のフランチェスコの言葉からもよくわかる。
「ファッションは、失われつつある伝統的クラフツマンシップと環境問題に配慮しながら、サステイナブルなビジネスを進めていくことが可能だと思う」
ニューノーマルな未来へ向けた展望を尋ねると、彼が作り出した「レトロ」と「エボリューション」をミックスした造語を交えてこう答えてくれた。
「私は“レトロボリューション(Retrovolution)”というコンセプトを大事にしています。過去から学んだ伝統と、それを超えていく意識のことです。これからも、伝統的なクラフツマンシップを取り入れながらクリエーションを続けたい。今まで以上に、自分たちの創造力を信じるときが来たのだから」
“描くことの創造性”こそがフランチェスコにとって美しいもの。ロックダウン中、自宅の壁一面もペイントした。描き続けることが、次なるクリエーションへつながっていく。
interview & text: Asako Kanno