Interview with Stuart Vevers
PROFILE
スチュアート・ヴィヴァース●イギリス出身。ウェストミンスター大学卒業後、数々のブランドを経て2013年にコーチのクリエイティブ・ディレクターに就任。現在はマンハッタンで、夫のベンと家族と暮らす。
自分をさらけ出すことを
恐れないで信念のために
立ち上がるのです
コーチと親会社であるタペストリーは、外出禁止令が発令されて間もなく、この緊急事態に対して多くの支援策を講じてきた。欧米諸国への経済的サポートから、自社の3Dプリンターを用いて人工呼吸器やフェイスシールドのパーツを製作するといった物資供給まで――。感染者をはじめ、医療従事者や地域住民を支援している。新型コロナ禍中で、クリエイティブ・ディレクター、スチュアート・ヴィヴァースはNYで在宅生活を送りながら、改めてファッションと真摯に向き合っていた。
「外出禁止令が発令されてからは、外出や旅行ができない状況を生かし、たくさんの時間を夫のベンと自宅で過ごしています。プライベートでは料理など家庭的なことを楽しんでいた一方、仕事では多くの人同様、在宅ワークを。チームと一緒にクリエイティブであるための新しい方法を模索中です。リモートで働くという挑戦を、うまく機能させるチームの想像力の使い方には感心しました。彼らのクリエイティビティは、常に私を驚かせてくれるんです!」
ブランドについてもあらゆる観点で考え直した。
「ファッションにおける今までの問題が露呈した結果、より大胆に、未来を描く機会となっています。この姿勢は今の一瞬だけではなく、これからもそうあり続けるべき。誰もが今までとは違うように考え、行動する時期であると真剣に受け止めている。世界がこれからどう変わるかが楽しみです」
大恐慌以来といわれているこの危機は、多くの価値観を揺さぶった。アフターコロナの世界では、服作りの目的やブランドの在り方も変わるのだろうか。今再び、ファッションの真価が問われている。
「服作りは、機能性と憧れの両方を備えるべきだと思う。人々の生活と関連するものであり、同時に身にまとって楽しんでもらえるようデザインされる必要がありますよね。装うことは、人が自分を表現するためのひとつの手段です。今後はかつてないほどその役割が重要になっていくでしょう。またファッションは私たちが生きている時代を常に反映しているので、メゾンは環境や政治といった社会問題に対する立場をはっきりさせ、その見解を明確にすることがこれからも大切になっていくと思います」
スチュアートがファッションの未来に対して紡ぐ言葉は、とても前向きで、ポジティブだ。
「服は、人々の生活に喜びをもたらすもの。楽観主義であることこそが、今の状況に立ち向かっていく方法だと私は思っているんです。次のコレクションをどのように発表するかはまだ模索しているところ。どんな形になっても、コーチをコーチたらしめるオリジナリティへの賛美は忘れず、新しいビジョンを打ち出す機会にしたいと思います。今の困難な状況は、創造性を爆発させるきっかけになる。われわれのクリエイティビティが、よりよい未来を想像することに役立つと信じています」
最後に今後ファッションデザイナーを目指す人へ、愛にあふれるメッセージを語った。
「困難が訪れてもそこからやり直せる強靭さと、粘り強さが大切。何の進展もなくても、直感を信じ、自らをさらけ出すことを恐れないで。自分の信念とビジョンのために立ち上がるのです。それこそが、他人とは違う見解(ボイス)をあなたに与え、人があなたに関心を持つ理由となるのだから」
自宅のデスクから見える光景。「この写真を見ると、毎晩19時にエッセンシャルワーカーを一緒に讃える近隣の人々を思い出す。ともに過ごす時間が増え、コミュニティの新しい価値が生まれていると感じます」
interview & text: Kaeko Shabana