Christelle Kocher / KOCHÉ

Interview with Christelle Kocher

PROFILE
クリステル・コシェ●2010年より、シャネル傘下の羽根細工アトリエ「ルマリエ」のアーティスティック・ディレクター。自身のブランドは2014年設立。今年、エミリオ・プッチとコラボによるカプセル・コレクションを発表。

多様性こそが、
ファッションの未来を豊かにする

 クチュールの域にある技術やシルエットと、ストリート&スポーティのハイブリッドで知られるクリステル・コシェによる「コシェ」。そのスタイルと並んで注目されるのは、彼女の社会性が強いアプローチだ。象徴的なのはデビュー当初に行なった、業界のヒエラルキーにとらわれず全員スタンディング形式を採用したランウェイショーだろう。ショー会場は、ショッピングモールやインド人街のパサージュなど、大衆的な場所。ストリート・キャスティングを主とするモデルの面々には、さまざまな人種や体格、トランスジェンダーまでをミックス。“多様性”ブームの先駆けとなったのが、まさにコシェのショーなのだ。

「ファッションの未来? 答えはひとつではないはず。それぞれが、自分なりのやり方を打ち出す模索をしていると思うから。それこそが、これからのファッション界を豊かにすると思うの」。あくまで多様性にこだわるクリステルは、こう切り出した。

「昨今のファッションシステムに対する不満は誰もが以前から抱いていたけれど、今やっと世界が熟考に向けて動きだした。これから、何かが始まるわね。ファッションは問題提起の手段であり、今世界で起こっていることとは切り離せない。と同時に、ファッションはポエジー、そしてアーティスティックな意思表示。服を通じて着る人に見てほしいのは、夢と現実の両方ね」

 クリステルはデザイナー兼会社の責任者として、めまぐるしい日々を送っている。「クリエーションだけではなく、生産から人事まで、スピーディに解決しなければいけない課題は山ほどあるの。新しいビジネス・パートナーとともに、見直すべきこともね」

 ちなみに新しいパートナーとは、メゾン マルジェラやマルニを擁するOTBグループ。グループ傘下のスタッフ インターナショナルがライセンサーとして、コシェの生産と販売を一手に請け負うことになった。

 そんな状況下でも、極力移動をしないことで節約できた時間を有効的に利用した彼女は、封鎖中のポジティブな一面として、“コミュニケーション”を挙げた。つまり、家族やしばらく疎遠だった友人たちに電話をしたり、外国の友人たちと助け合うこと。また毎日スポーツをする彼女が新しく始めたのは、ポッドキャストをしながらのランニングだとか。

「よく聞くエピソードは、男性らしさ、女性らしさをテーマとした哲学論、そしてアーティストや作家、たとえばボーヴォワールやコレットの生涯について。女性作家といえばフェミニストのヴィルジニー・デパントの作品を読み始めたわ」。これらは意識向上につながり、彼女はヒューマニティについてより深く考えるようになった。それはサステイナビリティ、環境保護への貢献などを総括した、“責任感のある服作り”というフィロソフィーにまで広がる。

「残反の使用やヴィンテージTシャツの再利用は、最初の一歩。最近はりんごの皮で作ったイミテーション・レザーも導入したの。新しい素材や生産方法のリサーチは、OTBが手伝ってくれるわ」

 一方、メティエダールのメゾン「ルマリエ」のクリエーションを率いるだけあってクラフツマンシップに精通する彼女は、家族経営の小さなアトリエに仕事を依頼することもある。技術だけでなくヒューマンな視点から、職人の未来を守りたいからだ。こんなふうに人とのふれあいを大切にする彼女は、封鎖解除の初日には自宅にスタッフたちを招き、本格的なアルザス料理でもてなしたという。

 彼女が今取り組んでいるのは、7月のパリ・デジタル・ファッションウィーク中に発表する予定の、小さなカプセル・コレクション。「デジタルの可能性は強く信じている。でも、人間性を感じたい私にとって、ランウェイショーはメッセージやエモーションを伝える大切な機会」。コシェの次のショーは9月? それとも来年? クリステルが今後どんな意思表示をするのか、待ち遠しくてたまらない。

早朝のジョギング中に見かけた、車を塗装中のアーティスト。車のボディには「コロナの犠牲者への思い」「ヘルスケア・ワーカーへ、ありがとう」とメッセージが。

 

自宅近くのジョギングコース、ビュットショーモン公園脇の丘から見た景色。緑と昔ながらの建物、そして高層住宅が入り交じって、典型的なパリではない眺めが好き。

interview & text: Minako Norimatsu

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