Interview with Thakoon Panichgul
PROFILE
タクーン・パニクガル●タイ生まれ、アメリカ・ネブラスカ州で育つ。『ハーパーズ バザー』でエディターを経験後、デザイナーへ転身。2004年に「タクーン」を創設。2017年から2年の休止期間を経て、昨年6月に『HommeGirls』創刊、秋にブランドを再開。
エンタメとして消費される
服作りより、スタイルに焦点を
2017年に自身のブランドを休止し、2年の充電期間に入ったタクーン・パニクガル。ブランドの再始動に先駆け、昨年6月、彼が発表したサプライズが、自費出版で手がけるプロジェクト『HommeGirls』のローンチだった。
「メンズウェアを着こなし、スタイルを愛する自由な女性に向けたマガジンであり、新たなプラットフォーム。流行やトレンドではなく、シンプルにスタイルを表現する手段が欲しかった。ベーシックなアイテムも、組み合わせ次第でスタイリッシュに見せられる。『HommeGirls』では、スタイルはタイムレスであることを伝えていきたいんです」
“男性のような装いは、女性のフェミニニティを隠すものではない。むしろ、燃え立たせる”をマニフェストに掲げ、誌面にはクリスティ・ターリントン、オシリア・サイモン、アレクサ・チャンなどを起用。一貫して凛々しく芯のある女性像を表現している。さらに、デザイナーであるタクーンならではのユニークな試みが同誌限定のコレクション。メンズの定番アイテムをシルエットはそのままに、女性向けに展開。第1弾はボタンシャツを、続けて古着を再構築するヴィンテージラボシリーズではジャケットを発売した。自身のブランドと異なるコンセプトでの服作り。そのきっかけとは何だったのだろう。
「単純にデザインして何かを創り出すことが大好きだから始めたというのが最大の理由。特に『HommeGirls』に、ヴィンテージの再構築というテーマがしっくりきたんです。私たちはリサイクルやサステイナビリティについて考えていく時代を生きているし、友達の多くの女性は、ヴィンテージショッピングが大好き。カットが今よりずっとクールだと言ってね。だからメンズの古着を女性用にリワークするのは、理にかなっていると思ったんです」
次はコットンのトランクス、ボクサーブリーフ、靴下を販売予定。ヴィンテージラボでは、トレンチコートやボンバージャケットなどを企画している。
今回の新型コロナ禍で、ファッションの在り方が大きく様変わりしようとしている。ロックダウン中も、「自宅では愛犬と戯れながら、ブランドとマガジンを同時進行。忙しく過ごしています」と話すタクーン。一度、服作りから距離を置いた彼は今、ラグジュアリーファッションの問題点をどのように捉えているのだろう?
「エンターテインメントとして消費されていくファッションは控えていく必要があると思います。もっと個人のスタイルに焦点を当てていくべき。インスタグラムを見れば、より目立ちたい、有名になりたいと誰もが声高に叫んでいる。ファッションにおいても、過剰なノイズが巻き起こり、軽率で必要のない無駄が生まれています。もし、一人ひとりが責任感を持ち、ファッション業界が団結し新たなルールを設けたら、そのときこそ、本当のサステイナブルな変化を見ることができると思います」
昨年秋に女性を彩るデイリーウェアブランドへ転換した「タクーン」では、「限定数量に足りるだけの生地をオーダーし、何シーズンも着られるシンプルなものをデザインしている」と言う。
「今取り組んでいる課題は、すでにある大量の生地やマテリアルを廃棄するのではなく、どのように有効活用していくかということですね」
そんな彼が、今後作りたい服とは?
「シンプルで機能的、洗練されたデザインで、ずっと愛用したいと思える服。着ると少し背筋が伸び、やる気が湧き、自信を持つ助けになるようなね。女性の身なりはこうあるべきという既成概念は、もはや通用しない。未来の女性像は、女性がリードして描いていくもの。『HommeGirls』を通して、そんなスタイルを発信していきたい」
「友達がフラワーアレンジメント用に、自宅へ送ってくれた花束。とてもうれしくて思わず撮った一枚」
タクーンが手がける『HommeGirls』最新号。年4回発行の紙媒体、ウェブサイト、 インスタグラムで展開中。
interview & text: Mari Fukuda