Heron Preston

Interview with Heron Preston

PROFILE
ヘロン・プレストン●米国サンフランシスコ出身。ナイキのデジタル・プロデューサーやカニエ・ウェストのコンサルタントを務め、2017-’18年秋冬シーズンより自身の名を冠したブランドを始動。DJとしても活動している。

ファッションと
サステイナビリティは共存できる。
ただ、努力してこなかっただけ

「実は、ファッションとサステイナビリティが対立するものだと私は思ったことがないんです。対立は人間がつくり出すもの。今回のパンデミックによって、われわれがずっと無視してきた問題が表面化したのだと思う。本当は企業側だけでなく、消費者にも責任があるんです。企業は、消費者が求めなければ動かない。誰もがそれぞれの立場でやるべきことをやれば、ファッションとサステイナビリティは共存できますよ。ただ、努力して実現させようという人が少なすぎただけ」

 ファッション業界を揺るがす喫緊の課題に対して、さらりとこう語ったヘロン・プレストン。ヴァージル・アブローやカニエ・ウェストとタッグを組んでストリートウェアブームを盛り上げてきた彼が、2017年に立ち上げた自身のブランドは、ストリート・ミーツ・ラグジュアリーの急先鋒としてモード界から熱い視線を浴びる存在だ。過去にはNASAとコラボするなど、大胆不敵な取り組みを実現してきた。そんな彼らしく、この未曾有の危機にあっても、そのスタンスは小気味よく、しなやかだ。

「よりよい世界を実現するための服作りに貢献する、そんな最新テクノロジーを有する工場やメーカーはちゃんと存在します。ただその多くがまだ小規模で、存在を知られていないだけなのです。そういうところが事業規模を拡大するのはすごく大変だし、投資だって必要だ。われわれも、もっとしっかり自分たちでリサーチして、知識をつけていかないといけない。私がまさに今、力を入れているのがそれです。まずは小さなプロジェクトとして始め、改善を経て、最終的に新しいビジネスモデルに落とし込む。全部のシステムを刷新するには時間がかかるけれど、不可能ではないと思っています」

 これは決して大言壮語ではない。ヘロンはすでに2016年、NY市衛生局(DSNY)とのコラボにより、ゴミ収集作業などに従事する人々の作業着をアップサイクルしたコレクション「UNIFORM」を発表している。この企画はのちに、NYのゴミ削減を目指すDSNYの支援財団「ニューヨークズ・ストロンゲスト」の設立へとつながり、今回のパンデミックでは、この財団を母体にエッセンシャルワーカーへの募金・寄付活動を行なった。小さなプロジェクトから社会問題に取り組んできた実績が、彼にはある。

 ヘロンは今、デジタル開催が決定した次のメンズ・ファッションウィークに向けて、デジタル・プレゼンテーションの準備に勤しんでいる。ただし、これはとりあえずの解決策でしかないと捉えている。

「新型コロナ以降の新しい世界を完全に理解するには、まだ時間が必要です。物理的なランウェイショーがなくなるかどうかは、正直、私にはわかりません。私自身は、ランウェイショーをアートパフォーマンスとして捉えて、今までやってきました。とはいえこれは、観客のみなさんとつながるためのひとつの手段にすぎません。クリエイティブな解決方法はいくらでもあると信じています。手間はかかりますが、焦って元のやり方に戻りたくはありません。熟考のうえで、みなさんとつながれるようなストーリーのあるものを生み出したいですね」

 今回のロックダウン中には、オーディオマニアの友人が作ったスピーカー作製キットを使い、スピーカー2台を自作したというヘロン。休日は山にこもり、電力のない生活に新鮮な喜びを覚えたそう。アナログな生活への共感と、最新テクノロジーを追求する姿勢を併せ持つ彼なら、ファッション界が進むべき道をうまく切り拓いてくれるだろう。

「平日は変わらず仕事をしていましたが、週末はできる限りNYを離れて山にこもっていました」 とヘロン。アップステートNYまでドライブし、山の中で友人や飼い犬と過ごしたそう。

interview & text: Chiharu Itagaki

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