Masayuki Ino / Doublet

Interview with Masayuki Ino

PROFILE
井野将之●群馬県出身。2012年に自身のレーベル「ダブレット」を設立。’18年にLVMHヤング・ファッション・デザイナー・プライズのグランプリに。’20年春夏メンズコレ期間中にパリで初のプレゼンを敢行。

作り手の思いが伝わる
パーソナルな服作りを

 中央の折れ目が開くと口がパックリ! 人間や動物の口もとプリントのマスクの着想源は漫画『寄生獣』だ。世界中でデザイナーたちがマスク作りを始めたが、やはりダブレットは一味違うアプローチ。DIYガイドもインスタグラムに投稿した。

「星野源さんの『うちで踊ろう』という曲の影響です。曲に余白をつくり発信、誰でも参加し“音楽を楽しむ”ことができる。また、レストランもレシピ動画を公開。外食に行きたいけど行けない状況で、お店の味を家で再現し“食を楽しむ”ことができる。ミュージシャンなら音楽で、シェフなら食で、自粛生活を充実できる試みを参加型で提供。そしてデザイナーの自分はデザインで。“物づくりを楽しむ”ことができるよう作り方を提案しようと思いました」

 卸先による相次ぐオーダーキャンセルの話を、若手デザイナーやセールスエージェントから耳にする。今回のことで小売り、特に実店舗の危うさが露呈した。ダブレットは自身のEコマースの強化やソーシャルメディアを通したビジネスなど、新しい販路の開拓を考えているのだろうか?

「開拓はもちろん考えはしますが、実行する気はありません。こんなご時世なので、国内外ともにオーダーのキャンセルや入荷数を減らしたいというお話はあります。でもそんなことをまったく言わずに、『自分たちも厳しいけど一緒に頑張ろう』『お客さんにできることを一緒に考えませんか』など、声をかけてくれる方もいます。仕事上の関係ではありますが、彼らは仲間。自分のブランドではなく、取引先の強化や販路の開拓に関わりたい」

 以前は仕事が終わると誰かと飲みに行っていた。一転自粛生活の中で考える時間が増え、今まで気づかなかった部分が見えたり、漠然と思っていたことに自分なりの答えを見つけられたと言う。

「なぜ服を買うのか、着るのか? ただ“かっこいい”や“似合う”からではなく、これからは“共感”を着るのではないかと考えました。たとえばTVとYouTubeの違い。TVはチャンネルの番組が時間軸で決まっていて、自分が興味あること以外の情報も入ってくるけど、YouTubeは自分で選択ができる。その選ぶ基準は、共感。服も同じように、作り手の思いや、なぜ作るのか、という部分が問われている。これからはもっとパーソナルな部分と、強い意志を持った服作りになっていくはず」

 動物愛護を理念にしているステラ・マッカートニーや環境破壊に対してのメッセージを打ち出すマリーン・セルのように。「『その服が着たい』の前に活動や理念に共感し、その思いも一緒に着る。“衣食住”では“衣”だけ分離されがちだけれど、思いのある服は、食や住と同じ生活の一部になるはず」

 次のパリメンズコレをはじめ、新型コロナへの対応でファッションウィークはデジタル化が進む。

「1月のパリメンズコレで発表した“We Are The World”がテーマのコレクションから、物づくりの考え方が変わり、自粛生活中に再認識しました。なのでクリエーションは大幅に変えません。ただビジネスプランは180度転換。時代はどんどんデジタル化が加速していくでしょうが、自分はひねくれてるのでかえってアナログを求めていくと思います」

 2018年グランプリを受賞したLVMHプライズが、今年のカール・ラガーフェルド賞の賞金を、これまでの受賞者のサポートにあてる発表をした。しかし「応募はしません。欧米のデザイナーは、日本よりももっと厳しい状況にあると思うので」と語る。

 世界の変化をしなやかに見つめながら、相変わらず硬派を決め込む昭和男。そんなところが取引先やフォロワーの信頼を集めているのかもしれない。

澄んだ空気を撮ろうとして見上げた空に輝いていた満月。多くの人が自粛に協力したことで、排気ガスが減り空気がきれいになったことを感じた。

作り方を公開した虎柄マスク。ブランドの取り扱い店が、自粛期間中の休業している時間を有効に使いたいと、ノベルティとしての制作を希望。ダブレットはアトリエのミシンを解放し休み中の店舗スタッフが制作した。

interview & text: Yu Masui

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