ポニーテイルとパイント【ブレイディみかこのSISTER "FOOT" EMPATHY】

"他者の靴を履く足"※を鍛えることこそ、自分の人生を自由に歩む原動力となる! 真面目な日本女性に贈る、新感覚シスター「フット」談

※ ブレイディさんの息子が、他者の感情や経験などを理解する能力である"エンパシー"のことを、英国の定型表現から「自分で誰かの靴を履いてみること」と表現。著作内のこのエピソードが多くの反響を呼び、社会現象となった。

ブレイディみかこのSISTER

3月8日は国際女性デーだったが、今年の英国メディアで目立ったのは、マノスフィアの話題だった。キングス・カレッジ・ロンドンが、市場調査コンサルティング会社のIpsosと共同で、国際女性デーにちなんである調査結果を発表したからだ。

英国、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、インド、日本など世界29カ国で行われた調査によれば、Z世代(1996〜2012年生まれ)の男性の31%が妻は夫に従うべきだと考えており、33%が重要な事柄について最終的に決めるのは夫だと答えている。Z世代のお爺ちゃんと言ってもいいベビーブーマー世代(1946〜1964年生まれ)では、前者が13%、後者は17%に過ぎなかった。

また、Z世代の男性のほぼ4分の1(24%)が、女性はあまり自立しているように見えたり、自己完結しているように見えたりするべきではないと考えているのに対し、ベビーブーマー世代の男性では12%にとどまった。

一般的に、若い世代ほど保守的な考え方をするといわれるようになって久しいが、性のあり方に対する考え方にもこれは顕著に表れた。Z世代の男性の21%が、「真の女性」は自分から性行為に誘うべきではないと考えているのに対し、ベビーブーマー世代の男性では7%だ。

だが面白いのは、Z世代の男性は、女性は自立しすぎていたり、自己完結しているように見えないほうがいいと考えているわりには、この世代が最も、キャリアで成功している女性は魅力的だと考える傾向が強い(41%)という結果だ。彼らは何を求めているのだろうか。バリバリ自立している感じではないし、守ってあげたくなるけれども、実はこっそりキャリアで成功していてリッチで頼りになる、みたいな感じなんだろうか。

しかし、女性にキャリアで成功してほしいなら、男性の育児参加は必要不可欠だが、Z世代の男性の21%が子どもの世話をする男性は、世話をしない男性よりも男らしくないと考えている(ベビーブーマー世代では8%)。

この調査結果を取り上げたBBCニュースのサイトには、こうした状況を生んだ原因はソーシャルメディアにあるという識者や専門家の指摘があった。いわゆるマノスフィアのインフルエンサーたちが、若い男性たちの不満や不安につけ込み、男性が支配力を取り戻さなければならないという主張を広げているのだ。「彼らが日々オンラインで与えられ、消費している情報の内容を考えれば、少年たちがミソジニー的な態度にならないほうが驚くと言っていいでしょう」と語っている識者もいる。

前述の調査結果は、国によっても数字が変わってくる。たとえば、北欧の国とアジアの国では、男性の育児参加に関する意識も変わってくるわけだが、でもこれだけいろんな国が参加している調査で、一貫してベビーブーマー世代よりZ世代のほうが保守的になっているというのは興味深い。伝統的ジェンダー規範の強い国なら、古い世代はものすごく保守的な人が多いはずだが、そうした国の数字を加味しても、若い世代のほうが保守的なのだ。

調査結果をグラフ化したものを見ていると、ベビーブーマー世代から、X世代(私の世代だ)、ミレニアル世代、Z世代へと徐々に男性たちのジェンダー意識が保守化していっているのが見てとれる。お爺ちゃんと孫の間には、現役世代と呼ばれるお父さんたちがいて、彼らの意識は、極端にリベラルでも保守的でもない。

そのお父さん世代の間で行われている、ちょっと異色な「子育て講座」がある。「パイント・アンド・ポニーテイル」と呼ばれるものだ。その名の通り、パブでパイントのビールを飲みながらポニーテイルなどの髪の結び方やまとめ方を学ぶ。こう書くと、美容師がパブで講座を受けているのかと思われそうだが、ブラシやゴムを片手に髪の毛と格闘しているのは美容師ではない。一般のお父さんたちだ。

英国では(日本もそうだろうが)共働きの家庭がほとんどで、お父さんが朝、娘の学校の支度を手伝うこともあるし、シングルファーザーの家庭もある。娘の髪をポニーテイルに結んだり、お団子にしたりする、いわゆるお母さんたちが娘にやってあげることがお父さんたちは苦手だ。自分の髪で経験したことがないからだ。「お父さん、髪、結んで」と言われて挑戦しても、なんか不格好になって娘に文句を言われたり、言われなかったとしても、変な髪型で学校に行く娘が不憫になって朝から気分が沈む。

そんな悩みを解消するため、この講座、いやサークル、またはイベントと呼んだほうがいいような集まりが始まったのだ。ロンドンのパブで始まったこのイベントは、SNSで瞬く間に動画が拡散されて話題を呼んだ。動画を見てみると、髭面のお父さんや、両腕にびっしりタトゥーが入ったお父さん、頭にターバンを巻いたインド系のお父さんらが、美容師がレッスン用に使うマネキンを前に真剣な面持ちで座り、講師の手本を見ながら髪をとかしたり、編み込みにしたりして作業に取り組んでいる。

テーブルの上にはパイントのビールが置かれ、お父さんたちが和気あいあいと練習しているのが伝わってくる。マスターしたらお父さんたちは娘とも和気あいあいとできるようになるだろう。母親が娘の髪をまとめる時間は、会話の時間でもある。「昨日、こんな夢を見たんだけど」「最近、あの子は元気なの?」と、シスターフッドの空間が立ちあがる。この空間は、男子禁制である必要はない。お父さんたちにも、シスターフッドをお裾分けしてあげるのだ。

この講座の動画をフェイスブックに投稿した参加者の一人がこんなことを書いていた。「いま、俺たちは〝男らしさ〟を再定義する極めて重要な時期にあると思う。俺はどちらか一つだけでなければいけないと思わない。昔気質でコテコテの男っぽい男。そして娘を誇りに思う、涙もろい父親。俺たちはその両方でいていい」。強さと優しさのどちらかを選ぶ必要はないということを、参加者のお父さんたちは学んでいる。こういうブラザーフッドは、シスターフッドととても近い距離にある。この極めて重要な時期を乗り越えていく、マノスフィアへの共同戦線だ。

ブレイディみかこプロフィール画像
ライター・コラムニストブレイディみかこ

ライター・コラムニスト。英国在住。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)、『私労働小説 負債の重力にあらがって』(角川書店)など著書多数。本連載は『SISTER“FOOT”EMPATHY』(集英社)に収録。

ブレイディみかこさんの関連記事はこちら