【京都】の音と本がある場所6選。レコードに針を落として、活字に浸る

レコードに針を落として、活字に浸る 

空間を満たすレコードの音と、手ざわりまでもが心を潤す一冊の本。京都の街角で待っているのは、店主の感性で育まれた音と本に出合える6軒。

レコードに針を落として、活字に浸る 

空間を満たすレコードの音と、手ざわりまでもが心を潤す一冊の本。京都の街角で待っているのは、店主の感性で育まれた音と本に出合える6軒。

INDEX

【本】鈍考/喫茶 芳

【本】鈍考/喫茶 芳

檜林に臨む鈍考の窓際。オーレ・ヴァンシャーのコロニアルチェアや、木工作家・吉川和人のサイドテーブルが空間に寄り添う。

喧騒を忘れる、静謐の私設図書室

叡山電鉄三宅八幡駅からのどかな街並みを歩いて10分ほど。閑静な住宅街に現れるのはブックディレクター・幅允孝さんによる私設図書室だ。事前に届く暗証番号で扉を開けると、広がるのは壁一面の蔵書と奥に広がる借景の檜林の眺め。長年東京を拠点としてきた幅さんが、"時間の流れが遅い場所をつくりたい"と考え日本各地を探した中で、出合ったのがこの地だったという。

建築家・堀部安嗣による空間は、まるで寺院の額縁庭園のように景色を贅沢に切り取る。無垢の床板の足ざわりや、広縁で耳にする鳥のさえずりや川のせせらぎ。五感を優しく刺激する環境が、本と向き合う自分だけの時間をもたらす。

書棚には3,000冊の蔵書。建築、暮らし、食、文芸、アートからサッカー関連の本まで、幅さんが長年かけてアーカイブしてきた書籍が並ぶ。中には付箋が残されたままのものもあり、幅さんの頭の中をそっとのぞくような気持ちになる。そのかたわらには、ネルドリップで丁寧に淹れられる濃厚なコーヒー。コーヒーを淹れる様子を見るともなく眺めるのも、心が安らぐ。空間と本、そしてコーヒー。すべてが溶け合うこの場所で、流れる時間に身を任せる心地よさを味わいたい。

【本】鈍考/喫茶 芳

カウンターに立つのは幅さんの妻のファンさん。コーヒー豆を自家焙煎し、じっくり淹れる佇まいが美しい。大倉陶園の繊細なカップ&ソーサーが空間に似合う。

【本】鈍考/喫茶 芳

古書から新刊まで、蔵書はしばしば入れ替わりながら本棚を埋める。

【本】鈍考/喫茶 芳

よく見ると書棚には銅板で「本の本」「こどもたちへ」など、幅さんならではのカテゴリーを示すプレートが貼られている。

【本】鈍考/喫茶 芳

1 コーヒー1杯分が含まれる施設使用料は¥2,200。定員は6名のため、混み合うことなく過ごせる。

2 窓の外に見える檜林。手前には梅谷川が流れている。本を手に取らず、ぼんやりと景色を見ながら過ごす人も多いという。

INFORMATION

鈍考/喫茶 芳

住所:京都府京都市左京区上高野掃部林町4の9
◯営11時、13時、15時からの90分制
※完全予約制
㊡日〜火曜

【音】レコードショップ ジジ

【音】レコードショップ ジジ

オーナーによるユニークなセレクト。驚くほど安いものもあり、大切なのは値段ではないことがわかる。

感性が光るショップで「音の出る絵」に出合う

鴨川から北上して鴨川デルタ、そして賀茂川へ。川が身近にある眺めは、いかにも京都らしい景色のひとつ。そんな抜け感のある賀茂大橋の東詰に2022年にオープンしたレコードショップ。まだ新しい店ながら、ここを旅の目的にするファンも多い新世代の名店だ。ミントグリーンの壁とネオンサインの外観は、80年代の軽やかな空気感を漂わせる。

ドアを開けて一歩中に入れば、視界に飛び込んでくるのは壁一面に並ぶジャケット。稀少価値や値段にとらわれず、ビジュアル優先で並べられた壁面は、店主・モトムラケンジさんの「レコードは音の出る絵だと思えばいい」という自由なスタンスがそのまま形になったもので、時には落書きされたジャケットが並ぶことも。そのディスプレイはマニアから初心者まで、訪れる人の好奇心をくすぐるのだ。

棚に並ぶレコードはヨーロッパ・ジャズやロック、シンガーソングライターの楽曲が中心。知名度よりもモトムラさんの心に響いたものだけがセレクトされている。さらに2024年からはオリジナルレーベルを立ち上げ、レコードとして届けたい、残していきたい楽曲を自らリリース。独自のセンスによる個性をますます際立たせている。

【音】レコードショップ ジジ

1 盛岡の早坂大輔さんと京都のモトムラさんの往復書簡をまとめた一冊

1 独立系書店「BOOKNERD」店主との共著『音信普通(ONSHIN-FUTSUU)』¥1,980

2 オリジナルレーベルのレコード。上から時計回りに韓国アーティスト、オムの『VACANT ROOM』¥4,200、キムバヌークの『BINJARI(ABSENCE)』¥4,800、ブラジルのガブリエル・ミリエッチの『UM』¥4,500

【音】レコードショップ ジジ

私物のグッズや雑貨を飾った一角。

【音】レコードショップ ジジ

3 最寄りは地下鉄北山駅。北大路駅から賀茂川沿いを歩いて向かうのもいい。

4 昔懐かしいシングルの飾り方もユニーク。

【音】レコードショップ ジジ

レジ横は、ギャラリーのようにお気に入りが壁を飾る。ミロコマチコや西淑ら交流のある作家のものも。

INFORMATION

レコードショップ ジジ

住所:京都府京都市北区上賀茂今井河原町10の12 1F 
☎075-278-5048 
◯営11時〜18時 ㊡火曜

【音】しばし

【音】しばし

竹林までが敷地となった広々とした庭。春から夏は庭でハーブを育て、ドリンクやスイーツ、料理に活用している。

ミックスカルチャーに包まれて、余白を手に入れる

平安神からほど近い、築100年の町家が喫茶に生まれ変わったのは2023年のこと。趣を残し改装された畳の間には、英国製のヴィンテージスピーカーが存在感を放つ。オーナーは音楽レーベル〈Traffic〉を主宰する中村周市さん。自身の私物である真空管アンプなど音響機器を配し、音楽とともに過ごす場を調えた。この日流れていたのはブライアン・イーノ、そしてマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。アンビエントからロックまで、ジャンルにとらわれない音がなじむのは懐の深い町家ならではかもしれない。

メニューを見れば、タルトタタンで知られる「ラ・ヴァチュール」別注のヴィーガンタタンや、近くのカフェ「ウォーベン」のオリジナルコーヒーなど、左京区の仲間によるここだけの味が並ぶ。週末の夜には「しばし ばー」となり、アナログ盤を愛するゲストによる「しばし円盤くらぶ」や、作家・いしいしんじが音楽を聴きながら即興小説を書く「しばしいしいしんじ」、落語や食にまつわる会など、さまざまなイベントが自由度の高い和室で繰り広げられている様子は、まさに現代のサロン。音楽を軸に、多様なカルチャーが交じり合う、今の京都を感じさせる場所となっている。

【音】しばし

1・2 店内のレコードは店の雰囲気に合わせスタッフがセレクト。客足が落ち着いている時間はリクエストできることも。この日は『Ambient1:Music for Airports』が流れていた。

3 フェアトレードショップ「シサム工房」とコラボしたしばし円盤くらぶレコードバッグ(¥3,800)や、レコードは購入可能。

【音】しばし

ムング豆のスープ、パンのランチセット¥1,600。パンは鳥取県大山の「コウボパン小さじいち」の天然酵母パン。季節によってブレンドが異なる漢方茶とともに。

INFORMATION

しばし

しばし

看板はここを訪れたテリー・ライリーの直筆!

住所:京都府京都市左京区岡崎天王町76の16
☎080-4189-3396
◯営喫茶12時〜19時、バー(土・日)17時〜22時
(土・日は喫茶17時終了後、バーがオープン) ㊡月曜

【本】アスタルテ書茶房

【本】アスタルテ書茶房

新たなカウンターは空間になじみ、昔からあったと錯覚するほど。窓のない空間がさらに時を忘れさせる。

古書店からカフェへ。耽美な記憶が残る書斎

ひっそりしたマンションの一室。靴を脱いで上がるその部屋は、ごく私的な書斎に迷い込んだかのよう。そこにはかつて耽美文学専門として知られ、小説家・澁澤龍彦や画家・金子國義らともゆかりの深かった個性派古書店「アスタルテ書房」があった。惜しまれつつ40年の歴史に幕を下ろした空間と蔵書を受け継いだのは、京都市内で2軒の深夜喫茶を営む西條豪さん。学生時代に店の名をつけた生田耕作の翻訳作品に触れていたことや、古書店で働いた経験などが、自身の背中を押したという。かくしてカウンターだけを加え、カフェ・バー「アスタルテ書茶房」として生まれ変わった。

書棚に並ぶのは、かつてのスタイルを受け継いだフランス文学や幻想文学を中心とする文芸書や美術書。澁澤龍彦がくつろぐ写真が残るブルーのソファは今も当時のまま置かれている。「装丁の素晴らしい本は、アナログならではの魅力を改めて感じさせてくれます」と西條さん。店内に流れるのは、本と向き合うのを邪魔しない密やかな音楽。深めに淹れた自家焙煎珈琲やウイスキーとともに過ごせば、たちまち時は過ぎてゆく。ここは、時代を超えて受け継がれた美意識に浸るための場所。

【本】アスタルテ書茶房

1・2 澁澤龍彦や生田耕作ら、ゆかりのある作家の作品をまとめた書棚。レトロな面影を残しながら、受け継いだ蔵書に西條さんが選んだものが少しずつ加わり、今の店の空気をつくっている。古書店時代を知る常連さんから、かつてのエピソードを聞くこともあるという。

【本】アスタルテ書茶房

雑誌のバックナンバーなどを、興味を惹かれるままに掘るのも楽しい。

INFORMATION

アスタルテ書茶房

アスタルテ書茶房

住所:京都府京都市中京区丸屋町332 御幸町ジュエリーハイツ202号室
☎075-252-8787
◯営14時〜22時 ㊡木曜

【本】余波舎(なごろしゃ)

【本】余波舎(なごろしゃ)

ジャンルは問わず、主張しすぎないBGMが流れる。本の合間に雑貨やCDなども。隅々まで目を配りたい。

心に余韻を残す本を揃える独立系書店

個性ある独立系書店が街のあちこちに点在するのも、京都の魅力のひとつ。西陣に店を構える「余波舎」もその一軒だ。「風が収まっても残る波のように、過去の出来事や記憶が本に綴られて、それを読んだ人の心に何らかの影響をもたらせられたら」と、店主の涌上昌輝さんは店名の由来を教えてくれた。

書棚に並ぶのは新刊と古書がおおよそ半分ずつ。新刊は料理や手仕事、文芸、アートから、香港で買いつける雑誌など、幅広い。古書は文芸や人文を中心に、絵本やビジュアルブックまで揃う。1階にイタリアンレストランがあることから、食にまつわる本も充実。「長く売っていきたいと思う本を大切にしたい」と涌上さん。あえてジャンルを絞りすぎずにセレクトするのは、読み手の好奇心を刺激し、視点を広げる提案をしたいから。一冊を手に取ると、その隣にある本にもつい目が留まる。興味が連なり、読み手の世界が広がっていくような置き方を心がけているという。落ち着いた平日には、客と雑談をしながら興味を引き出すこともある。店の一角にはギャラリーも併設。民芸の器や香港雑貨、写真展など、本の世界観とリンクする展示も魅力あるものになっている。

【本】余波舎(なごろしゃ)

ローカルな選書にも注目したい。

1 京都の出版社「灯光舎」の小さな専用棚。

2 隣り合う本の共通性を考えて本を並べるのは編集作業のようでもあると涌上さんは言う。目論見通り、目移りして思わぬ出合いが。

【本】余波舎(なごろしゃ)

店は建物の2階にあり、入り口側に新刊、奥が古書と分かれている。

INFORMATION

余波舎(なごろしゃ)

住所:京都府京都市上京区前之町443 2F
◯営12時〜19時 ㊡月・火曜

【音】オーウェン

【音】オーウェン

土壁がぬくもりをもたらしつつも端正な空間。元は家具店だった建物の改装を手がけたのは建築家・依木想太。

音楽とワインとが互いを引き立て合う夜

日が暮れるにつれ、明るく浮かび上がる店内が看板のように主張し、存在を際立たせる。白川通に面するガラス張りの外観が印象的なワインバーは、音楽とともにある。カウンターの一角にはターンテーブル。壁にはイギリス・タンノイ社のヴィンテージスピーカーが据えられている。どんなに忙しくても店主・江頭諒さんはレコードに目を配り、音が途切れることはない。「音は店の空気をつくるためのもの。ジャズやロック、ソウルからアンビエント、和ものまで、時間帯やお客さまの顔ぶれ、雰囲気に合わせて選んでいます」と江頭さん。一人で店を切り盛りしているからこそ、その場にしっくり合う一枚を迷わず選べるのだ。

音とともに楽しみたいのは、フランス産を中心とした自然派ワイン。バリスタとしてキャリアを重ねる中で、その魅力に開眼したという江頭さん。間借り営業でワインバーを始め、後には東京・中野のカフェバー「LOU」の立ち上げを経て京都へ移住。自身の店を、あえて街からひと足延ばす北白川に構えた。シンプルに仕上げたデザートは、ワインと一緒に楽しんでこそ味わいが完成する。心を満たす音とワインがもたらす居心地を、心ゆくまで堪能したい。

【音】オーウェン

1 並ぶレコードは800枚ほど。

2 20代ながらさまざまな経験を重ねてきた江頭さん。「高校、大学とバンド活動をしていました。京都に引っ越す3年前までは恵比寿の『BAR TRACK』に足繁く通っていて、音楽で店の雰囲気をつくることは、そこでインスパイアされた」という。

3 ラム酒をきかせたクレームブリュレ¥600、グラスワイン¥1,300

INFORMATION

オーウェン

住所:京都府京都市左京区北白川東久保田町7
☎075-600-0536
◯営17時〜24時 ㊡火曜

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