執筆のモチベーションは、プロレタリア的な反骨心。『BOXBOXBOXBOX』でデビューした作家・坂本 湾さんにインタビュー

昨秋『BOXBOXBOXBOX』で文藝賞を受賞しデビュー。同作で芥川賞候補にもなった坂本湾さん。この小説は宅配所を舞台に非正規で働く4人の人間たちによる不穏な物語だ。

 

坂本 湾

「これを書いていたのは、大学を中退し派遣で働いている時期でした。社会との関わり方に困難を感じていて、これ以上頑張ってもどうにもならないんじゃないかと行き詰まりを覚えていたんです。そういった自分の感情を整理して言語化する作業から、この小説は始まっています。設定が宅配所になったのは、労働への行き詰まった思いが、物語的にも心象的にもいちばん合致した仕事だったから。高校生の頃に初めて働いた職場がモデルになっていますが、実際にはすぐに逃げ出してしまいました」

宅配所でレーンの各所に配置され、流れてくる箱を黙々と仕分けする、稲森、斉藤。それを管理する契約社員の神代。小説は4人の視点で描かれる。現場では個々の見分けがつかないほど霧が立ち込め、ほとんど会話もなく、中身のわからない膨大な数の箱と同様に人間も画一化されている。彼らは総じて疲弊し、閉塞感に襲われていたが、安はそれを箱の中身を想像することで紛らわせていた。

「派遣社員としてフルタイムで働いていたときも、大きな困難を感じました。人生で莫大な時間を占める労働に疲弊し、うんざりしてしまって。単純作業には絶望があり、それを麻痺させるために快楽を幻視する。こういう感覚はすべての労働に当てはまるんじゃないかと思います」

あるとき箱の一つが歪んでいるのを見た安は、中身を知りたいという衝動に駆られる。非人間化された集合体から個が現れ、その内部に手を伸ばそうとした瞬間だ。小説はそこから思わぬ展開を見せる。

「いろいろな非正規の仕事をしてきましたが、書くモチベーションとしてプロレタリア的な反骨心があります。自分の中の行き詰まりを文字にしてみたら、労働者としての強い意識に気づきました。これは今後の執筆においても大事にしていきたい要素です」

物語の終盤は、4人の視点が一つに重なるように閉塞感が解けるカタルシスを予感させるけれど、まったく違うラストシーンにより、読者を驚かせる。

「書く前に大枠のプロットは組みましたが、結末は決めていませんでした。それは書くことが、行き詰まった鬱屈感や世界認識を把握する作業でもあったし、そこから自分も脱却したかったので。でも結局、どうすれば脱却できるかまではたどり着けなかった。自分も労働の中で切り離された感覚があったから、コミュニケーションにこそ希望があるんじゃないかと考えたんです。だから4人には連帯してほしくてその方向へとやや差し向けたんですが、そうはならなかった。それを素直に書いた感じです」

現在は次回作を準備中の坂本さん。小説の題材は日常生活の中から見つけている。

「自分の困難さを突き詰めていくと社会と接続してしまう感覚があります。でも、だからといってシリアスなものばかりではなく、リアルな社会をナンセンスに戯画化してみたり、笑える要素を入れてみたりと、読んでいて楽しいものを書きたいという気持ちもあるんです」

坂本 湾プロフィール画像
作家坂本 湾

さかもと わん●1999年生まれ。北海道出身。2025年『BOXBOXBOXBOX』で第62回文藝賞を受賞しデビュー。同作が第174回芥川賞候補に。好きな作家は安部公房や大江健三郎、町屋良平。

『BOXBOXBOXBOX』

『BOXBOXBOXBOX』  坂本 湾

河出書房新社/1,650円
霧に覆われた宅配所で夥しい数の箱の仕分け作業に追われる非正規労働者の安。閉塞感に息を塞がれ疲弊していたが、箱の中身を想像することでやり過ごしていた。しかし潰れかけた箱の中を見た勢いで、つい中身を盗んでしまう。

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