世界の連帯の現場から。ニューヨーク、ソウル、東京で広がる新しい社会運動

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NEW YORK デモは、仲間を増やす場所 REPORT BY NANA IWAMOTO

タイムズスクエアでの反戦デモ

タイムズスクエアでの反戦デモ。

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Q1. どんな世界を目指していますか?

戦争がない世界、もっとみんなが自由な世界。それを想像することが大切。

Q2. あなたにとって社会運動とは?

共感して一緒に動いてくれる仲間を見つけて、社会を変えていくこと。

Q3. 社会に変革を起こすのは何か?

ハッシュタグではなく人々の日常における小さなつながりと、対面での行動。

マムダニ市長を「利用」して 社会運動を後押しする

抗議行動をする訪問介護労働者

市庁舎前で抗議行動をする訪問介護労働者。

今年設立20周年を迎えるPOSSEは労働問題や貧困問題に幅広く取り組み、年間約2000件の労働相談に対応しているNPO法人。さる4月、そんなPOSSEのメンバーは社会運動の取材のためにNYを訪れた。きっかけは民主社会主義者であるゾーラン・マムダニ市長の誕生だったと、代表理事の岩本菜々さんは言う。

「日本では格差と貧困が広がり、社会保障の拡充を訴えるべきときなのに、今年2月の衆議院選挙では弱者への福祉を削って手取りを増やそう、みたいな言説が広がりました。でもNYでは、1月に市長に就任したマムダニが富裕層に課税をすることで労働者が安心して暮らせる街をつくろうと主張して支持を得ていて、日本とは対照的な動きが起きているように感じたんです。彼の当選のために一軒一軒ドアをノックしたボランティアはなんと10万人いたそう。その背景に何があるのか、リアルな現場を見たいと思いました」

「富裕層に課税を」と求める医療関係者

トランプ大統領が決めた低所得者医療保険制度の削減に反対し「富裕層に課税を」と求める医療関係者。

一行は、不当な家賃のつり上げなどと闘う借家人の組合テナントユニオンや、移民の訪問介護労働者による24時間労働の廃止を求める運動、サウスブロンクス地区のコミュニティ再建運動を取材対象にセレクト。ストライキに足を運んだりしつつ話を訊いた。

「人々はマムダニ市政にすごく期待をしていると思っていましたが、受け止め方は意外にも冷静でした。そもそも彼が公約に掲げた家賃凍結や保育の無償化は、社会運動が長年要求してきたこと。彼はそれを取り入れただけで、変革の中心にあるのはあくまで社会運動であり、選挙の結果はその副産物という意識だったんです。今はみんなマムダニが市長になったこのチャンスをどう生かすか考えています。たとえば市に賃借人保護局が新設されたんですが、テナントユニオンの活動家がトップに起用され、『賃借人の組織化は正当な権利だ』と市長と連名で声明を発表しました。運動を後押しするために市長を利用したわけです。いい政治家を選んで任せるというより、交渉しやすい政治家を選ぶという感覚です」

POSSEのメンバーとテナントユニオンのオーガナイザー

POSSEのメンバーに町を案内するテナントユニオンのオーガナイザー。

岩本さんいわくNYでの運動の参加者は、若い社会人が中心。エリートコースを歩んでいながら将来に不安を抱き、別の生き方を探していたという人が少なくないようだ。そして昨今こうした若者の支持を集めているのが民主社会主義であり、最近はシアトルなどほかの米国の都市でも民主社会主義者の市長が誕生している。

「米国はもともと急進的な考えの人が多かったわけではなく、ここ十数年間に地道な組織化を進めて、隣人を説得し友人を仲間にしていった結果、今の状況がある。そういう意味でNYの社会運動は、組織化されていることが特徴だと実感しました。日本でデモに行ってもあまり声を掛けられませんが、NYでは取材初日に市庁舎前のデモに行った瞬間、同世代の若者たちに囲まれたんです。日本で運動をしていると話すと、『どんな戦略なの?』と尋ねられ、3日後には私も一緒にビラを配っていました(笑)。デモは、仲間を増やす場所と捉えられているようです」

テナントユニオンの集会

テナントユニオンの集会で日本の住宅事情について話す岩本さん。

今は日本でも同様の連帯を広げるチャンスだと岩本さんは見る。「社会運動と言うと大きなことをイメージしますが、米国でも大規模なデモの構成要素は小さい単位なんです。テナントユニオンにしても、同じ建物で暮らすふたりの住人が組織をつくることから始まった。『まずは仲間をひとり見つけるだけでいい』とオーガナイザーは話していました。『家賃が高いね』と思っている仲間をひとり見つけるくらいなら、できそうと思えますよね。本当に小さいことからでいいんです」

岩本菜々さんプロフィール画像
POSSE代表理事岩本菜々さん

1999年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。大学3年生のときにPOSSE(ポッセ)に参加し、奨学金返済者の実態調査や困窮者支援などの活動に取り組む。NYではテナントユニオンの取材を担当。

SEOUL デザインが結ぶコミュニティ REPORT BY IN-AH SHIN

FDSCの運動会

FDSCの運動会。勉強会に加え、メンバーが気軽に集まって交流する時間も。

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Q1. どんな世界を目指していますか?

人と人がきちんと向き合い、意見をぶつけ合って、共に問題を解決できる社会。

Q2. あなたにとって社会運動とは?

自分の信じる道を生きること。そうしなければ生きられないから行動する。

Q3. 社会に変革を起こすのは何か?

自分で決めた小さなルールの地道な実践。行動しなければ、何も変わらない!

人と人との個人的な関係が社会を動かす力になる

世界のどこにも、軍靴と銃剣を必要とする国はない

「世界のどこにも、軍靴と銃剣を必要とする国はない」と書かれたポスターをデザイン。

非常戒厳を宣布した大統領の弾劾を求め、2024年末から大規模なデモが起きた韓国。ソウルの光化門広場は約4カ月にわたって、思いを掲げた旗やプラカードで埋め尽くされた。その光景を支えたひとりがフェミニスト・デザイナー・ソーシャルクラブ(FDSC)のシン・イナさんだ。

「FDSCには約220人のデザイナーが所属していますが、以前はデモへの参加などをグループチャットで呼びかけてもほとんど無反応だったんです。でも、非常戒厳の夜はみんなが不安や恐怖を語り始め、メッセージはあっという間に900件を超えました。なかなか寝つけず、明け方までニュースを見ていた人も多かった。それなのに、朝になれば何事もなかったかのように仕事に行かなきゃいけない。そのことに多くの人が強い違和感を覚えていたのです。翌日、抗議活動に興味を持った人に向けて新しいチャネルを開設すると、一気に約100人の登録がありました」

他団体とも連携を取り、「民主主義を求めるフェミ・クィア・ネットワーク」の名でデモ会場へ。約5団体が集まって活動を始めたが、やがてその数は13団体に膨らんだ。彼女たちが最初に掲げたのは、「これぞ反フェミニズム政治の末路」と書かれた横断幕だ。

韓国女性大会

弾劾決定の約1カ月前、韓国女性大会にて。「弾劾後、私たちが望む民主主義」について市民の意見を付箋で募った。

「私たちは以前から“反フェミニズム政治はいずれファシズムにつながる”と警鐘を鳴らし、反対し続けてきました。その懸念が現実となった以上、非常戒厳という事態に至った原因を説明する必要があると思ったのです。大統領の弾劾を要求するだけでなく、次はフェミニズムや多様性を尊重する政権を選ぶべきだというメッセージも伝えたかった。こうしたコピーをいくつも作り、目に見える形にするためにさまざまなビジュアルを制作しました。そのうえで、連帯のシンボルとして〝フェミニストは要求する。尹錫悦は退陣せよ〟という旗をデザイナー5人がオンライン上で制作し(上イラスト)、弾劾決定までデモに参加したのです」

地方からデモ会場にやってきた農民のトラクターが警察に撤去されそうだと知り、早朝に駆けつけたことも。

「実を言うと、私は本来デモの現場に行くのが好きな人間ではありません。それでも、よく知っている活動家の顔が浮かび、あの人が今あそこにいるんだと思ったら居ても立ってもいられなくて。“顔を知っていること”の力を改めて感じました。報道される活動家の姿は、警察に拘束されたり激しく抗議したりする様子ばかりで、別世界の人のように見えますが、実はそうじゃない。顔見知りになっていれば、あの人の活動を少し手伝おうかなという気持ちが芽生えます。あのとき強く感じたのは、小さなつながりでも、人と人との個人的な関係こそが社会を動かす力になるということでした」

FDSCのワークショップ

2019年にデザイン業の志望者を対象に開催したFDSCのワークショップ。

弾劾デモの経験を機に、連帯が必要な現場へ駆けつける人が増え、彼らをスズメバチからミツバチを守る養蜂家に例えた「スズメバチ市民」という言葉も生まれた。その中心は20〜30代だ。

「デモは活動家や情勢に詳しい人だけが参加するものではなく、『何か起きたらとにかく現場へ行けばいい』と考える人が増えたことが印象的。ただ、社会を変える方法はたくさんあります。社会運動=デモと考えるのではなく、普段から学び、自分にできることを考えて、小さな行動を日常の中で実践していくことが大切だと思います」

社会運動をもっと身近なものにするために、彼女は昨年SUPERSTORMという新たなコミュニティを立ち上げた。

「勉強会や対話を通して、考え方が変わったと言ってくれた参加者がいました。『これまで自分には何もできないと思っていたけれど、大きな問題に向き合うには日頃の練習が欠かせない。SUPERSTORMはそのための小さな筋肉を育てる場所だ』と。うれしかったです。私がつくりたいと思っていたのは、まさにそういう場所だからです」

シン・イナさんプロフィール画像
グラフィックデザイナーシン・イナさん

ソウルでデザインスタジオ「今日の風景」を運営。2018年より、フェミニスト・デザイナー・ソーシャルクラブ(FDSC)を発起。2025年社会運動を理解するためのコミュニティSUPERSTORMを設立。 @today.inah

TOKYO パッチやプラカードに「息の長い希望」を託す REPORT BY DAIKI TATEYAMA

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段ボールにカラフルな素材を配した手づくりのプラカード。

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Q1. どんな世界を目指していますか?

すべてのいのちが尊重される世界。

Q2. あなたにとって社会運動とは?

社会に自分が関与できると思い出させてくれる場所。

Q3. 社会に変革を起こすのは何か?

暇な時間。

プロテスト参加者

「脱植民地化」のメッセージがプリントされた服をまとうプロテスト参加者。

2020年に熊本から上京して以来、写真家として環境問題を出発点に6年以上東京のプロテストを撮影し続けている立山大貴さん。

「近年の社会の変化として感じるのは、戦争が近づいているということ。戦後80年といわれているけれど、戦前に入ってしまう気配を感じています」

今や〝危機〟は過去の記憶でも、対岸の火事でもない──そうした強い切迫感を抱く人々が増えた結果、社会運動の様相も変わりつつある。一部による大規模なアクションだけでなく、多様な人々がオーガナイザーになることが同時多発的に生まれているのだ。

「個人による小さな運動が増えている実感があります。頻度も上がっており、種類も多岐にわたっています」

その実践のなかで立山さんの目に留まるのは、親しみやすさである。

「服や鞄にメッセージ入りのパッチをつける人がすごく増えました。言葉選びにおいても漢字よりひらがなを使ったり、ただ『反対』と叫ぶより『こういう未来が欲しい』と希望を語ったりする。プラカードやパッチの撮影を続けるなかで、同じ社会問題に対して表現が増え続けていることを肌で感じます」

プロテスト参加者

大切な思いを託したパッチを鞄につけて。

ボキャブラリーが増えることは、社会運動の裾野を広げる〝器〟となる。参加者が多様化しハードルが下がることで、これまで声を上げにくかった人々も参加ができるようになる。

立山さんの写真からも、それらは垣間見られる。カラフルなパッチ、アイコニックなキャラクターが描かれたポスター、個々の服で表現されたメッセージ。こうした昨今の日本のプロテストの光景について、こう考察する。

「最近、フランスでの共同プロジェクトに参加して、現地のプロテストの写真を目にしました。ガラスが割れていて炎が上がっていて──対比してみたときに、現在の日本のプロテストは圧倒的に色が多いことがわかります。ひとりで声を上げることへの恐れや、怒りのムードへの忌避感があるからこそ、〝怖くない光景〟を開こうとしているのではないでしょうか」

韓国から波及し、日本でも全国に広がるペンライトデモも、「アジアの外ではあまり見られない光景」だ。

地球のため わたしのため

2025年に下北沢で開催されたイベント「地球のため わたしのため」の様子。

一方で、東京で運動を継続する難しさもある。「他国と比べても成功体験が少なく、プロテストが社会を変えうる感覚が薄い」。だからこそ立山さんは、成果を政治的・法的な変化だけに求めない姿勢を取る。「参加することで同じ違和感を抱くのは自分ひとりではないことが可視化される。少しの希望や諦めない感覚を共有することも、プロテストの大きな役割だと思います」

心身のために、腰を据えて息の長い運動を覚悟すること。実践として立山さんは写真以外に、「地球のため わたしのため」を企画する。気候変動と暮らしをつなげ、問題を手繰り寄せるためのマルシェ型イベントだ。目的は表面的な変化ではなく、生活や働き方といった〝思考の根本〟への作用だという。

「地球や生命を搾取して目前の利益を追う在り方を変えない限り、問題がすり替わっていくだけです。時間はかかりますが、生活に深く結びついた変化が起きれば簡単に覆らなくなります」

国会前で行われたプロテスト

国会前で行われたプロテストで色鮮やかに輝くペンライトの光。

日常の服にパッチを“身につける”行為は、まさに生活と運動の交差点。フィルムで捉え続ける写真もまた重要な媒介の手段だ。

「声を上げた人たちの存在は、資料として残すことで初めて歴史になりうる。それは同時代的な連帯を生み出すだけでなく、次世代がその記録に励まされ、連帯を感じることにつながります」

私たちが先人たちから望みを得てきたように、東京の路上で紡がれる声は、次の時代へ確かな意思をつなぐだろう。

立山大貴さんプロフィール画像
写真家/Spiral Clubメンバー立山大貴さん

熊本大学で気象学を専攻後、写真家・環境活動家として東京を拠点に活動する。さまざまな社会問題に取り組むアクティビスト、NGO、学生団体などが企画するプロテストに参加し、撮影を続ける。 

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