近年日本でも盛り上がりを見せるデモを中心とした社会運動に、「怖い」というイメージをもっている人も多いのでは。社会運動は私たちの生活をどのように変えてきたのだろう? 過去にデモが達成したこと、デモの現状の都市別レポートからその可能性を探る。
近年日本でも盛り上がりを見せるデモを中心とした社会運動に、「怖い」というイメージをもっている人も多いのでは。社会運動は私たちの生活をどのように変えてきたのだろう? 過去にデモが達成したこと、デモの現状の都市別レポートからその可能性を探る。
多少の違いがあっても、共通の利害を見出し連帯しよう
SPUR(以下S) 現政権下で加速する改憲に向けた動きなどに抗議し、国会前でデモが頻繁に起きています。このような動きを予感していましたか?
富永京子(以下富永) そうですね。デモ参加率が低い日本でも、ある程度政治的な動きが起きると社会運動は行われてきた。そういう意味では予想していました。また今回のデモは基本的に平和・反戦デモだと思いますが、平和・反戦に対する思いが日本人は今でもこんなに強いんだと実感しましたね。それは憲法の力かもしれません。
S 実際にデモの様子をご覧になって、何が印象に残っていますか?
富永 DIYが多いのが面白いですよね。ハンドメイドのプラカードが目立っていますが、DIYってつまり、社会運動の「時間を延ばす」ことにつながるんです。プラカードを作る時間も、材料を調達する時間も運動になる。だから、多くの人の記憶や手ざわりの中に長く残るんじゃないでしょうか。
S その影響源はどこなんでしょう?
富永 2024年の韓国の非常戒厳に抗議する運動でいろいろバナーが見られたことが影響していると思います。ペンライトもそう。そうやって自分たちにとって親しみのあるアイテムに社会運動を引き寄せるのは、いいことですよね。
S 今回のデモは労働組合やNPOといった団体ではなく、一般の若者が主導しているとも言われています。
富永 その見方はしないほうがいいかもしれません。若くなくてもいいし、なんとなく来てもいい。昔からやっていた人と初めて参加した人が一緒にいることこそが、今回のデモのよさだと思うんです。どちらかというと連帯を阻む傾向にある今の社会では、ゆるく同一性や共通性を見つけないと組織化できない。そして組織化できないと、政策化もできないですよね。「こっちに行こうよ」という動きがないと、一時的に跳ね返す力にはなったとしても、持続しない。
S 違いを認めて、最低限の共通性を見出して連帯することが重要なんですね。
富永 共通の利害を見出す、と言ったほうがいいのかもしれません。たとえば、私たちはもはや同じ女性というだけでは、生活状況が違いすぎて連帯できない。そういうときに“共感”でつながると、姿勢の違いが見えたときに失望してしまう。なので「戦争すると損でしょ?」とか、「女性の地位が低いと損でしょ?」みたいな利害の一致のほうが、ドライに聞こえるかもしれないけれど響くのではないでしょうか。
S ちなみに最近デモに参加した人から、「ブランドのバッグを持っていたら、なぜだか罪悪感を覚えてしまった」という声がありました。社会運動に参加する人の多くは、清貧を尊び、隙を見せてはならないというプレッシャーを感じているように思います。
富永 グローバルブランドであれば、その活動がきっと誰かを救っているだろうし、都合よく捉えていいと思うんです。「〝完璧〟をやり始めると他人を許せなくなる」という運動参加の研究があって、非常に納得したんです。空気を読まずに華やかなバッグを持っていますが、何か?くらいの気持ちでいれば、同じくそのブランドのバッグを持ってる人が運動に入りやすくなる。
S おしゃれをしてデモに行ってもいいということですね。
富永 そう。おしゃれをして行けば、たとえばファッションを学んでいる若者たちも来やすいかもしれません。多くの人は、社会運動に参加している人が近寄りがたいとか、「私も行っていいのかな?」と感じている。だから幅を広げるためにも、“ガチ”じゃなくていい。無関心に近い人が来てくれることも大事です。社会運動においては、多様性を失ってしまうということが問題視されていますからね。
S メディアの取り上げ方についてはどのように感じますか?
富永 まず、近年主役を決めるような報道をしなくなったことは大きい変化です。つまりグレタ・トゥンベリのような中心にいる誰かではなく、全体を見ている。シンボル的なリーダーが引っ張るというこれまでの像から変わってきたんだと思います。社会は誰が変えてもいいし、運動の側もあえてリーダーをつくらないようにしている気がします。いい意味で中心がわからない。
S では、そもそも社会運動が社会で果たす役割とは何でしょう?
富永 まずは沿道で見る人の意識啓発ですよね。たとえば「入管法改正反対!」と言いながらデモをしている人を見て、「ああ、入管法ってものがあるんだ、それで苦しんでいる人がいるんだ」と気づいたり。それがメディアで報道されたら、さらに多くの人の気持ちを変えることができる。社会運動はコスパがいいんです。未成年でも選挙権がなくても参加できますから。それによって政策策定者や企業の意思決定層に訴えられるというのは、大きな効果です。また、参加している人自身の意識が変わりますよね。路上を実際に歩いてみることで見える景色があって、自分たちがいかに空間に規制され、社会に規制されているのかがわかる。それが、地理学的というか、身体的なデモの作用だと思います。
私たちはみんな社会運動で変わったあとの世界で生きている
S 第二次世界大戦後の日本の社会運動の代表例と言えば、1960年代の学生運動です。その後しばらく下火になったようにも見えます。
富永 実は下火になってはいないと思いますよ。そのあと国際婦人年にあたる1975年にウーマン・リブ運動が活発になり、80年代にはフェミニズム運動が拡大。他方で60年代後半から70年代にかけて障がい者の権利を求める運動も盛り上がり、生活協同組合の動きが活発になり、労働組合の組織率は80年代にピークを迎えた。盛り上がった、下がったというのは、可視化されているか否かの違いで、この間にもいろんなことが変わりました。男女雇用機会均等法は1985年に成立しましたし。
S 海外に比べて社会運動が活発ではないと思いがちですが、そう単純な話ではないんですね。
富永 参加率と発生数では諸外国にかなわないけど、日本でも社会に合った運動をやっているんだと思います。政策提言を行なったり、勉強会や読書会を企画したり、声の上げ方を工夫してきたんじゃないでしょうか。たとえばKuToo(注:職場でヒールのある靴の着用を女性に強要する服装規定の廃止を求める運動)みたいに、ハイヒールの靴を履かないというだけで運動になる社会が来るとは思っていませんでした。個人的なことはまさに社会的なこと。装いはすごく重要なものです。
S 路上で声を上げる直接的行動を忌避するのは国民性によるもの?
富永 日本では警察の警備が厚いとは言われていますよね。
S デモに参加することを犯罪だと思っている人もいますよね。
富永 統計を取ると、なんと1割の人はデモを犯罪だと思っていて、メディアがつくり上げたステレオタイプの影響が大きいとも言われています。
S 実際は国民の権利として保障されていますよね。映画を観に行くような感覚で行ってもいいんでしょうか。
富永 そうですね。「社会運動は真面目にやらなければ」とみんな思い込んでいる。でも今のデモは動画サイトで中継して、インターネットからの参加者の人数も公表しています。以前なら現場に行かないと参加と認められなかったけど、そうならなくなったのはいいことだと思う。実際遠くに住んでいたり、子育てや介護をしていて行けない人もいて、いろんな参加の形を自分にも他人にも許容できますよね。
S ほかにもSNSでメッセージを拡散したりと、参加方法が増えました。
富永 今の社会って、みんな自分ひとりで頑張ってしまいますよね。他者の援助や社会の支えがないかのように思ってしまって。でも実際は人権や労働の権利を求める、過去のさまざまな運動によって変わった世界で私たちは生きている。だから今はパワハラを受けたら訴えられるし、建前かもしれないけど、男女平等賃金で働いている。デモに参加すれば、自分ひとりで生きているんじゃないと実感できる。私たちはそんな、すでに変わった社会の中で生きていて、自分も変えていく主体であると感じられるからこそ、参加することに意義があるのかなと思います。
S 報道もされない小さい運動があちこちで起きているんでしょうね。
富永 報道されるだけが運動ではないですから。それに私たちは普段から、会議中に日本語が母語ではない人のためにゆっくり話したり、車椅子の人が来たら通りやすいように机を動かしたり、多様性を包摂しています。そして「この会社、バリアフリーにしたほうがいいね」とか、労働組合を通じて訴えたりしますよね。デモなどで声を上げるということは、そういう生活の延長線上にあると思います。だから日本で社会運動が怖がられているとしたら、それは生活と政治をうまくつなげられていないからかもしれません。
商品名
:
『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』 アリス&エミリー・ハワース=ブース著 糟野桃代訳 青幻舎
価格
:
¥2,200
古代エジプトでのストライキからブラック・ライヴズ・マターに至るさまざまな社会運動を、英国人の姉妹がイラストを駆使して楽しく紹介。たくさんの学びと勇気をもらえる。
商品名
:
『みんなこうして連帯してきた 失敗のなかで社会は変わっていく』 ジェイク・ホール著 安藤貴子訳 柏書房
価格
:
¥2,640
英国人の作家兼ジャーナリストである著者は過去60年間を振り返り、国境や人種の境界を超えた14の連帯の例を検証。それぞれから得られた教訓、そして現代との接点を確認する。
商品名
:
『みんなの「わがまま」入門』 富永京子著 左右社
価格
:
¥1,925
富永さんの多くの著書の中でも、本書は中高生を読者に想定。声を上げて人々の意識や制度を変える行動をあえて"わがまま"と位置づけ、社会運動とは何かを解いて行動を促す。
1986年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了。立命館大学産業社会学部准教授、ウィーン大学客員研究員を務める。専攻は社会運動。最近特に注目している運動としてDIYアーバニズムを挙げる。
THE HISTORY OF SOCIAL MOVEMENTS SINCE 2OOO 連帯が成し遂げてきたこと
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